凡河内躬恒

小倉百人一首 029

心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花

こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな

凡河内躬恒

読み

こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな

現代意訳

無造作に折ろうとすれば、果たして折れるだろうか。一面に降りた初霜の白さに、いずれが霜か白菊の花か見分けもつかないほどなのに。

※心あて / 根拠もなく推し量ること、あて推量、当てずっぽう
※折らばや折らむ / 「ば」は仮定、「や」は疑問、「む」は意思を表している
※置きまどはせる / 置いて分からなくする

季節



出典

「新古今集」

解説
凡河内躬恒(おおしこうちのみつね / 生没不明)は平安時代前期の人で、寛平、延喜・延長の頃の人と言われています。
歌人としては紀貫之と並ぶほどで、『古今集』の選者のひとりでもあるほか、藤原公任が選んでいる三十六歌仙の一人でもあります。

延喜十一年(911年)に和泉の権掾六位となりましたが、詳しいことは伝えられていません。
しかし、凡河内躬恒の和歌は、勅撰和歌集に200首近くが伝えられていて、特に叙景歌に優れていました。

凡河内躬恒が和歌のつくりり方を弟子達に教えていた時、庭に咲いている白菊に霜が降りているのを想像して、この和歌をつくってみせたと伝えられていますが、その景色が目に見えるようです。

実際には、霜と白菊とを見間違うことはないでしょうが、見た感じを巧みに表現していて、白一面の透き通るような情景が感じられます。
そして、その中では、白菊の気品のようなものが一段と際立っていて、清々しくもある印象を与えています。

ところで、菊は奈良時代に唐から移入されていて、平安の時代には、秋を代表する花として、和歌の中にも多く詠み込まれるようになりました。
菊は観賞されるだけでなく、「延命草」とも呼ばれ、薬草としても利用されていたようです。

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