藤原敏行朝臣

小倉百人一首 018

住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢のかよひ路 人目よくらむ

すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ

藤原敏行朝臣

読み

すみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ

現代意訳

住の江の岸に打ち寄せる波のように (いつもあなたに会いたいのだが)、 どうして夜の夢の中でさえ、あなたは人目をはばかって会ってはくれないのだろう。

※ 住之江 / 摂津の国、現在の大阪市住之江区
※よるさへや / 「夜」と「波が寄る」をかけていて、「や」は疑問を表している
※よくらむ / 「よく」は避ける、はばかるの意味。「らむ」は推量。

季節

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出典

「古今集」

解説
藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん・? ~902,907?)は、清和、 陽成光孝、 宇多、 醍醐の五朝に仕えていますが、陸奥出羽の按察使・富士麻呂の子とも言われています。

藤原敏行は藤原公任が選んだ三十六歌仙のひとりに名前が挙げられていて、平安時代の優れた歌人です。
『古今集』にある「秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」も、敏行の詠んだよく知られている和歌のひとつです。

また、藤原敏行は歌人であると同時に書道にも優れ、空海に並ぶと言われるほどの書道の大家でもありました。
世俗の身でありましたが、(書をよくしたので)「請われるままに写経をしたので地獄に送られた」などという話も、「今昔物語」や「宇治拾遺集」に残されています。

この和歌は敏行の恋心を詠ったものですが、御所で開かれた歌会の折、思いを寄せる女性を思い出して詠まれたと言われています。

「人目よくらむ」は「人目を避けようとしている」というような意味ですが、この主語は明記されていないので、「私」とも「あなた」とも取れるつくりになっています。

「私」を主語としたなら、「夢の中でさえ、人目をはばかってしまう(気の弱い)わたし」というように解釈できます。
一方、「あなた」を主語とすれば、「あなたが夢の中にさえ出てきてくれない」ので、作者の切ない気持ちが強調されることになります。

いずれにしても、打ち寄せるさざ波のように揺れる恋心が伝わる、味わいある和歌になっています。

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