026 貞信公 |
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原文 |
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小倉山 峰の紅葉ば 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
(をぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ) |
現代語訳 |
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小倉山の峰の美しい紅葉の葉よ、もしお前に哀れむ心があるならば、散るのを急がず、もう一度の行幸をお待ち申していてくれないか。 |
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027 中納言兼輔 |
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原文 |
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みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
(みかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ) |
現代語訳 |
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みかの原を湧き出て流れる泉川よ、(その「いつ」という言葉ではないが) その人をいつ見たといっては、恋しく思ってしまう。本当は一度たりとも見たこともないのに。 |
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028 源宗于朝臣 |
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原文 |
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山里は 冬ぞさびしさ まさりける 人目も草も かれぬと思へば
(やまざとは ふゆぞさびしさ まさりける ひとめもくさも かれぬとおもへば) |
現代語訳 |
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山里はいつの季節でも寂しいが、冬はとりわけ寂しく感じられる。尋ねてくれる人も途絶え、慰めの草も枯れてしまうのだと思うと。 |
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029 凡河内躬恒 |
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原文 |
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心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花
(こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな) |
現代語訳 |
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無造作に折ろうとすれば、果たして折れるだろうか。一面に降りた初霜の白さに、いずれが霜か白菊の花か見分けもつかないほどなのに。 |
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030 壬生忠岑 |
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原文 |
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有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなし
(ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし) |
現代語訳 |
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あなたと別れたあの時も、有明の月が残っていましたが、(別れの時のあなたはその有明の月のようにつれないものでしたが) あなたと別れてからというもの、今でも有明の月がかかる夜明けほどつらいものはありません。 |
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031 坂上是則 |
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原文 |
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朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪
(あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき) |
現代語訳 |
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夜が明ける頃あたりを見てみると、まるで有明の月が照らしているのかと思うほどに、吉野の里には白雪が降り積もっているではないか。 |
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032 春道列樹 |
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原文 |
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山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり
(やまがはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり) |
現代語訳 |
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山あいの谷川に、風が架け渡したなんとも美しい柵があったのだが、それは (吹き散らされたままに) 流れきれずにいる紅葉であったではないか。 |
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033 紀友則 |
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原文 |
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久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ
(ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづこころなく はなのちるらむ) |
現代語訳 |
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こんなにも日の光が降りそそいでいるのどかな春の日であるのに、どうして落着いた心もなく、花は散っていくのだろうか。 |
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034 藤原興風 |
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原文 |
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誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくに
(たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに) |
現代語訳 |
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(友達は次々と亡くなってしまったが) これから誰を友とすればいいのだろう。馴染みあるこの高砂の松でさえ、昔からの友ではないのだから。 |
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035 紀貫之 |
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原文 |
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人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
(ひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける) |
現代語訳 |
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さて、あなたの心は昔のままであるかどうか分かりません。しかし馴染み深いこの里では、花は昔のままの香りで美しく咲きにおっているではありませんか。(あなたの心も昔のままですよね) |
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036 清原深養父 |
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原文 |
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夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむ
(なつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ) |
現代語訳 |
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夏の夜は、まだ宵のうちだと思っているのに明けてしまったが、(こんなにも早く夜明けが来れば、月はまだ空に残っているだろうが) いったい月は雲のどの辺りに宿をとっているのだろうか。 |
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037 文屋朝康 |
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原文 |
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白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける
(しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける) |
現代語訳 |
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(草葉の上に落ちた) 白露に風がしきりに吹きつけている秋の野のさまは、まるで糸に通してとめてない玉が、美しく散り乱れているようではないか。 |
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038 右近 |
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原文 |
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忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
(わすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな) |
現代語訳 |
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あなたに忘れられる我が身のことは何ほどのこともありませんが、ただ神にかけて (わたしをいつまでも愛してくださると) 誓ったあなたの命が、はたして神罰を受けはしないかと、借しく思われてなりません。 |
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039 参議等 |
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原文 |
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浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しき
(あさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき) |
現代語訳 |
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浅茅の生えた寂しく忍ぶ小野の篠原ではありませんが、あなたへの思いを忍んではいますが、もう忍びきることは出来ません。どうしてこのようにあなたが恋しいのでしょうか。 |
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040 平兼盛 |
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原文 |
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忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで
(しのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで) |
現代語訳 |
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人に知られまいと恋しい思いを隠していたけれど、、とうとう隠し切れずに顔色に出てしまったことだ。何か物思いをしているのではと、人が尋ねるほどまでに。 |
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041 壬生忠見 |
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原文 |
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恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
(こひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか) |
現代語訳 |
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わたしが恋をしているという噂が、もう世間の人たちの間には広まってしまったようだ。人には知られないよう、密かに思いはじめたばかりなのに。 |
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042 清原元輔 |
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原文 |
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契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波こさじとは
(ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは) |
現代語訳 |
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かたく約束を交わしましたね。互いに涙で濡れた袖をしぼりながら、波があの末の松山を決して越すことがないように、二人の仲も決して変わることはありますまいと。 |
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043 権中納言敦忠 |
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原文 |
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逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
(あひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり) |
現代語訳 |
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このようにあなたに逢ってからの今の苦しい恋心にくらべると、会いたいと思っていた昔の恋心の苦しみなどは、何も物思いなどしなかったも同じようなものです。 |
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044 中納言朝忠 |
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原文 |
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逢ふことの 絶えてしなくば なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
(あふことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし) |
現代語訳 |
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あなたと会うことが一度もなかったのならば、むしろあなたのつれなさも、わたしの身の不幸も、こんなに恨むことはなかったでしょうに。(あなたに会ってしまったばっかりに、この苦しみは深まるばかりです) |
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045 謙徳公 |
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原文 |
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哀れとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
(あはれとも いふべきひとは おもほえで みのいたづらに なりぬべきかな) |
現代語訳 |
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(あなたに見捨てられた) わたしを哀れだと同情を向けてくれそうな人も、今はいように思えません。(このままあなたを恋しながら) 自分の身がむなしく消えていく日を、どうすることもできず、ただ待っているわたしなのです。 |
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046 曽禰好忠 |
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原文 |
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由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
(ゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな) |
現代語訳 |
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由良の海峡を渡る船人が、かいをなくして、行く先も決まらぬままに波間に漂っているように、わたしたちの恋の行方も、どこへ漂っていくのか思い迷っているものだ。 |
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047 恵慶法師 |
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原文 |
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八重むぐら しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
(やへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり) |
現代語訳 |
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このような、幾重にも雑草の生い茂った宿は荒れて寂しく、人は誰も訪ねてはこないが、ここにも秋だけは訪れるようだ。 |
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048 源重之 |
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原文 |
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風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかな
(かぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな) |
現代語訳 |
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風がとても強いので、岩に打ちつける波が、自分ばかりが砕け散ってしまうように、(あなたがとてもつれないので) わたしの心は (恋に悩み) 砕け散るばかりのこの頃です。 |
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049 大中臣能宣朝臣 |
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原文 |
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みかきもり 衛士のたく火の 夜はもえ 昼は消えつつ 物をこそ思へ
(みかきもり ゑじのたくひの よるはもえて ひるはきえつつ ものをこそおもへ) |
現代語訳 |
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禁中の御垣を守る衛士のかがり火は、夜は赤々と燃えているが、昼間は消えるようになって、まるで、(夜は情熱に燃え、昼間は思い悩んでいる) わたしの恋の苦しみのようではないか。 |
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050 藤原義孝 |
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原文 |
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君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
(きみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな) |
現代語訳 |
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あなたに会うためなら惜しいとは思わなかった私の命ですが、こうしてあなたと会うことができた今は、いつまでも生きていたいと思っています。 |