参議雅経

小倉百人一首 094

み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり

みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり

参議雅経

読み

みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり

現代意訳

吉野の山の秋風に、夜もしだいに更けてきて、都があったこの里では、衣をうつ砧(きぬた)の音が寒々と身にしみてくることだ。

※み吉野の / 「み」は接頭語。「吉野」は奈良県吉野地方で、古くは離宮が置かれていた
※ふるさと / 旧都のことで、吉野を指す
※衣うつなり / 「うつ」は砧で布を打って、柔らかくしたりすること

季節



出典

「新古今集」

解説
参議雅経(さんぎまさつね・嘉応2年~永久3年 / 1170~1221年)は、刑部卿 頼経の子どもで、藤原雅経のことです。
従三位左近中将から従三位参議にまで進みました。
雅経は定家、家隆らとともに「新古今集」を撰進したほか、蹴鞠もうまく、和歌と蹴鞠の家、飛鳥井家を興しています。

この和歌は自然を詠んだものですが、殷富門院大輔藤原良経の和歌と同様、本歌取りの技法がとられています。
本歌は、古今和歌集にある「み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり(吉野の山では今ごろ白雪が積もっているのだろう。この旧都である奈良の都でも寒さが増しているのだから)」という、坂上是則が詠んだものですが、雅経の歌では、季節が秋に変わり、「聞く(砧で打つ音)」ことが詠みこまれていて、動きも加わって新鮮な印象を与えています。

「衣うつなり」は、布に艶を出したり柔らかくするために砧(きぬた・布を打つための木の棒)で布を打つことですが、今は寂れてしまった吉野の里に秋が訪れ、その音がいっそう寂しさを醸し出しています。

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